リピート (文春文庫)
乾 くるみ
「共感」しながら「嫌悪」する語り口。
これは相当おもしろい! けっこう分厚い本なのに、引き込まれるようにぐいぐいと読んでしまった。 情緒的なところの欠片もない、理屈っぽい一人称の文章が 先の展開を予測しながら読むのを助けてくれて不思議な気分になる。 語り手である主人公は利己的なやつで、 だけど自分もその立場だったら近いことになってしまうかもと思わせる、 「共感」と「嫌悪感」を同時に覚えさせるという荒技をやってのける。 純粋に「楽しむための」小説だった。
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日本の若者は不幸じゃない (ソフトバンク新書)
福嶋 麻衣子/いしたに まさき
タイトルにひかれて衝動買い。
よく見てみたら、著者の福嶋さんは僕と全く同い年の1983年生まれ。 そのせいか、社会に対して思っていることが僕ととてもよく似ていて、すごく親近感を覚えた。 「日本の若者は不幸じゃない」というコンセプト自体もそうだし。 強く共感したのは、「私たちの世代は不況ネイティブである」という考え方。 「昔はよかったのに、今は不況だから不幸だ」とか言われたって、 僕らそもそもバブル時代を全く知らないよ。 だからそんなものと比べられたって困る。 「今の若者は可哀想だ」なんて言うのは、そのバブル時代につくられたものさしを、 今の時代にも当てはめて計ろうとするからじゃないのか。 そして問題なのは、そうしたものさしが親たちの世代だけではなくて、 そうした世代に影響を受けた若者たち自身の中にもあって、 自分で自分を計って「不幸だ」と思ってしまう人が少なくない、ということ。 だけどそうした人たちに対して、「若者たちは決して不幸じゃない」と著者は主張する。 かつての価値観とは違って、若者たちは10年後20年後の安定や大きな収入がなくても、 ちょっとした幸せ、「ちょい」の成功で満足できる。 オタク文化やインターネットの中で「居場所」を見つけられた若者は、それなりに幸せであって、 過去の価値観に照らし合わせて不幸を押しつける必要はないんじゃないか、という主張だ。 僕自身、この主張に賛同するところは多々ある。 僕の今の仕事量や給料を聞くと、眉をひそめて「それは大変だ」と同情してくれる大人たちがいる。 その一方で、僕自身は自分がそうした大人たちに比べて不幸だなんて思っていない。 確かに給料は多くないけれど、週末になればたくさんの友人を家に呼んで、 あり合わせの野菜や肉を鍋に放り込み、 少しずつ買い集めたお酒で安上がりな(でも美味しい)カクテルをつくって、 しょっちゅうパーティーを開いたりしている。 鍋といったら高級食材をなにか入れないと気が済まなくて、お酒は人につくってもらうもので…… なんて思っているようなバブルの価値観を引きずっている「大人」の人は、 きっとこの楽しさは分からないんだろうな、なんてむしろ同情したりするくらいだ。 だけど、手放しでは賛同できない部分もある。 とくに、将来のこと、具体的には子供のこと。 「若者は、300~400万の収入があればいいと思ってる」 「女の子は、失敗しても家族という居場所が確保されている」 と著者は言及しているが、子供を養い、長い期間育てていく、 ということを考えたらそうはいかないのが現状だろう。 それを詳しく考えずに「今の若者は不幸じゃない」といったところで、 それは問題を先延ばしにしているだけだ。 そういう話を、もっと細かく検討してほしかったのだけど、 残念ながら上記のような主張が書かれているのは冒頭の導入部だけで、 それ以降は福嶋さんが運営するアイドルライブバー「ディアステージ」と、 各地で広がる「オタク文化」の紹介的な内容になってしまう。 「若者のパワーをあらわす具体的な動き」として、 アイドル、ゲーム、アニメ、をきっかけとしたオタクの若者たちの 具体的な行動の例が挙げられているのだが、 あくまで紹介にとどまってしまっているなぁ、という印象。 初めからそういうクラスターに属している人は「そうだそうだ」と言うかもしれないけど、 そういう文化に理解がない人がこれを読んでも、むしろ余計に奇異に見えるばかりで、 「なるほど、確かに若者は不幸じゃないな」とは思わないんじゃないだろうか。 全体として、もう少し冒頭の主張を掘り下げて、 説得力のあるものにしてほしかったなぁと思うけれど、 僕と同年代の人の社会に対する価値観や、 上の世代から「不幸だ」と言われることへの違和感が、 こうして本になることで少しでも伝わるきっかけになるのなら歓迎したい。 著者たちの今後の活動に期待したいと思わせる本だった。
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サンデルの政治哲学 (平凡社新書)
小林 正弥
「サンデルとは何者か」を教えてくれる本。
「白熱教室」「これからの正義の話をしよう」などで話題になっている、 政治哲学者マイケル・サンデルの思想について書いた本。 サンデルの書いた内容を噛み砕いて説明した入門書かと思っていたが、 実際にはサンデルの著作ひとつひとつの内容を丁寧に解説し、 政治哲学という学問の歴史や発展の経緯も含めて、 「サンデルとは何者か」「どんな主張をしてきた人か」というのが、 門外漢の素人にもわかるようにしてくれている、 非常に内容の濃いものだった。 僕は、サンデル本人の著作を読む前に、 読んでみるべきかどうか、ざっくりとした感触を知りたいな、と、 軽い気持ちでこの本を買ったのだが、 むしろ本人の著作を読む前に、サンデルがどういう人なのかを知ることができて、 とても有意義だった気がしている。 つまりこの本のおかげで、このあとにサンデル本人の著作を読むに当たって、 その主張するところを冷静に受け止めることができる下地を、 先につくることができたように思うのだ。 サンデルには興味がある。 その主張も、ざっと聞いたところでは何やらかなり正しそうに見える。 でも、「白熱教室」に見られるような、あの巧みな会話法は、 逆に、そうでないことでも正しいような気持ちにさせられるような気がして、 逆に読んでしまうのが怖いような気もしていた。 冷静に受け止めるのではなく、魔法にかけられたように 信奉者になってしまうのはいやだなぁ、とかそんな気持ちがあったのだ。 でも、この本を読んでわずかとはいえ予備知識を仕入れた後ならば、 少しは冷静に読むことができそうだ。 この本の中で整理されたサンデル自身のコミュニタリアニズム、 あるいは共和主義というような思想について、だいぶ共感しつつも、 まだ半信半疑なところが僕にはある。 サンデルの著作で、それぞれの思想の具体的な実践例を見て行きつつ、 僕自身のこの思想に対する態度を考えていきたい、と思っている。
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テルマエ・ロマエ I (BEAM COMIX)
ヤマザキマリ
おもしろい!
古代ローマの浴場技術士が、 なぜか何度も現代日本にタイムスリップしてしまう、という斬新な設定。 ストーリー性はあまりないし、全体にご都合主義なんだけど、 全体に軽妙な語り口だからあまり気にならない。 コメディとは言え、「笑わせる」という感じがあからさまではなくて、 生真面目な主人公の性格のおかげもあって、すごくほのぼのとした感じ。 普段まんがを読まない人にもお勧め。 ほんと、古代ローマって面白い。 数千年も前なのに、文明があんまりに進んでいて、 残っている書物に見られる人々の生活を見ても、自然に「共感」できる。 こんなに時間・空間的に隔たりがあるのに「共感」できるなんて、 何だか奇跡のようなものを感じる。 そうした中で、古代ローマと、現代日本の「共感」を もっとも感じられる共通点、それが「風呂」なのかもしれない。
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ラブひな(1) (講談社コミックス)
赤松 健
電子マンガに挑戦。
pdf版が無料ダウンロードできるよ!とのことで、試しに読んでみた。 おお、意外とiPhoneでも快適に読めるもんだ。 ちょっとだけ文字が小さいけれど、なんとかなる。 そして、内容だけど、超王道ラブコメ、って感じがなかなか面白いなー。 毒っ気が全然なくて、安心してほのぼのと楽しめる。 続きも読んでみようっと。
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古代マヤ・アステカ不可思議大全
芝崎みゆき
本棚に置きたい本。
すてきな本に出会った。 読んで良かった本とか、他の人に勧めたい本とか、そういうのにはたくさん出会ってる。 でも、本そのものに惚れて、これから先何十年も家の本棚に置いておきたい!なんて思った本は本当に久しぶりだ。 本文に使われている紙の質とか、ソフトカバーで派手すぎないけど楽しげな色の装丁とか、全体の雰囲気も相当好き。 自宅ブックカフェ(笑)の本棚の、特等席に置かれること決定。 前置きが長くなったけど、この本について。 マイナーだけど、面白いとこだらけのアメリカ大陸の神話や、 遺跡からおぼろげに分かってきた暮らしぶりなどを、マニアックに書きまくった本。 マヤ! アステカ! なんかわくわくするけど、難しくて、くわしいことは全然知らない、って人がほとんどだろうと思う。 僕もその一人。でも、なんかわくわくする、ってステキだよね。 全然知らないのも、これから新鮮に驚ける要素がつまっている、ってことだし。 そして、全編手書き。 さらっと言ったけど、とんでもないことだ。 イラストはもちろん、びっしりと書かれた文字が全部手書きのものを、取り込んで印刷してある。 ほぼ全ページ黒一色で、細いペンでひたすらに手書きされたその本の見た目は もはや、中学校とかの学級新聞そのもの。 もっとも、今は学級新聞だってパソコンで作るのかもしれないけどね。 なんでそんなめんどくさいことをしたんだ!と誰だって思う。 パソコンに比べて労力がハンパない。 それに、正直言って読むのも大変。 活字ならさらさらと読み流せるのに、手書きだといちいち頭の中で解読するからか、 予想以上に読むのに時間がかかる。 いつのまにか僕らはすっかり活字文化に染まっているんだなぁ、なんて思う。 でもそれでも、この本が手書きであることはすごい魅力だ。 僕らからすると全く馴染みがなくて、遠い存在であるマヤ、アステカの文明が、 手書きの文字によってすごく近く感じられる。 えらい学者先生がまとめた考古学の本じゃなくって、好奇心旺盛で変わり者なクラスの友達が、 目を輝かせながら語ってくれる不思議な話。そんな感じ。 内容はといえば、意外にも「簡単、すぐわかる!」という感じじゃない。 出てくる内容もごちゃごちゃしてるし、そもそも分厚い(約300ページ!)。 しかも、これでもか、というほどに詰め込まれた脱線的な、トリビアっぽい情報だらけで、 どれが本筋かわからなくなったりもする。 でもそれがまた、自分の話に興奮しながら熱く語る友人っぽくていいんだよなぁ。 考えてみれば、古代の神話なんていう役に立たないことに夢中になっているんだから、 合理的なことなんかとは無縁で、脱線こそが楽しいんだもんなぁ。 世の中、分かりやすいとか、手間をかけないことがもてはやされてるけどね、無駄はロマンなのですよ。 偉そうな学問っぽくはないと言ったけど、だからと言っていい加減に作られてるわけじゃない。 そこはオタクらしい熱心さを発揮して(笑)、大量の参考文献を参照して膨大な情報量になっている。 もともと学会でもまだわからないことだらけの文明だし、門外漢の気楽さもあって、 ちょっとトンデモな説も、「こんなことを言っている人もいます」なんて取り上げているのがまた楽しいんだよなぁ。 そんなわけで、一気に読み終えて「役に立った」とかなんとか言うんじゃなく、 家においておいて、何年後でも、気が向いたときに手に取りたくなる、そんな素敵な本なのでした。
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檸檬のころ (幻冬舎文庫)
豊島 ミホ
『教育的』も『反骨的』も飽き飽きした人へ
すごく読みやすい短編集。 青春小説、だなんて言われるジャンルだろうけど、 そういうのに特有な、必要以上に美化された匂いがしない。 登場人物たちは、結構かわいくない。 全然いいやつらばかりじゃないし、若者特有のイライラさせられる部分も多々ある。 でも、だからいい。本当を感じられる。 一作だけ、先生の視点で書いた作品が混じるのもうまい。 「子どもは純粋でいいとか、大人は分かってくれないとか、 勝手に単純化してんじゃねー、全部人間だっつーの」 著者のそんな言葉が聞こえてきそうな、そんな感じ。 優等生ばかりが出てくる「教育的な」作品、あるいは、 性格破綻者ばかりが出てくる「反骨的な」作品の、 どちらにも飽き飽きしている人へ。 まぁ、現実はこんなもんさ。でも、それもありなんじゃない?
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刀語 第十二話 炎刀・銃 (エントウ・ジュウ) (講談社BOX)
西尾 維新
暇つぶしとして、すごく満足。
長い長い12冊のシリーズ、ようやく読み終えた。 このシリーズをあらわす言葉は、「軽い」。それにつきる。 とにかく肩の力を抜きまくった作品で、「漫画みたいな作品」どころか、 漫画より軽いぐらい。 しかも、ところどころに「こういうのやるの、僕も結構大変なんだぜ」というような、 作者のメタ的なぼやきが散りばめられていたり。 当然、賛否両論はあるだろうし、嫌いな人はだいっきらいだろうけど、僕は満足。 読み終わった後に何かが残るとかそんなんじゃなくて、 純粋に、肩の力を抜いて、暇つぶしが出来る。 他の本を読むのと比べて、半分以下の時間でさっくさくと読み進められて、 ちゃんと読んだ気分にはなれるのだから、 ある意味でこういう作品は貴重だと言えるだろう。 なんにせよ、極端ってのは取り柄になるべきものだと僕は思っている。 だからこれは、「極端に、軽い本」。 肩の力を抜いて、是非。
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百瀬、こっちを向いて。
中田 永一
やっぱりあの人、だよね?
某有名作家の覆面ペンネームだと言われている本。 読んでみると、間違いなく……と思ってしまう。 もしそうじゃなかったら、むしろ苦しいだろうな、だってオリジナリティがないもん。 というわけで実際にそうだ、という仮定で書くけれど、 相変わらずの「視界の狭い一人称」で進む展開はさすがにうまい。 はじめっから感情移入の方向性を限定するから、 それほどすごい展開じゃなくても、大きく感情移入できるんだよな。 でも、ちょっと新鮮さに欠けるかなぁ。 だんだんマンネリ化してきた感覚は否めない。 とはいえ、ずっと新作を書かずにいたのが、 リハビリがてら戻ってきたのだと思えば……今後にすごく期待できる。
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